「あ、有村じゃん」

そう、確かにこの声は、

彼に間違いない。

「吉谷君…」

「やっぱここにいた。
ちょっといいか?」

やっぱり?

どういうことだろう。

あたしは、あたしは、

ここに久し振りに描きに来た。

もう一度、貴方の机を…

なのに、やっぱりって。

予感?勘?

誰かに聞いたのだろうか。

いや、あたしは誰とも話してないし…

「どうしたの?」

「あんさ、お祭りあるだろ?
えーっと、8月の終わりだっけ?」

「あ、あの緑川の花火大会?
毎年…確か、25にある、よね?」

「俺もよくわかんねーの。
こっち来たばっかだから」

「あ、そっか。
ごめんね、あたしも行かないから…」

あんまりお祭りは好きじゃない。

人混みがただ単に嫌いなだけで、

あの甘い綿菓子とか、

香ばしい匂いの焼き鳥とか、

芯まで揺れる花火だとか、

その全て、あたしは大好きだった。

でも、今は…

なんかさみしくて、

あたしがいなくなっても、

この世界は同じように回るって、

改めて実感する、そんな、

そんな、少し憂鬱なものとなった。

「そっか、
でさ、俺行きたいんだけど…
行く人いないわけよ」

行く人がいない?

こんなに周りから好かれてるのに?

「でさ…」

あたしの長い髪が、静かに揺れた。

彼の、栗色の髪も。

同じ風があたしたちを、揺らす。



「一緒行かね?」



頷くことしか、できなかった。