「はぁ……はぁ……」


 失われた記憶のすべてが、一気に頭の中で再生されたからか、私はしばらくの間、頭を抱えたまま、大きく肩を上下に揺らすようにして息をする。


「……桃花ちゃん?」

「……桃花……さん?」


 榊先輩はともかく、春人ったら……そんなに情けない声で呼ばないでよ。

 昔と変わらないなぁ、アンタは。でっ、でも、ちょっとは男らしくなったんじゃないっ?アンタにしては上出来っていうか。……本人には言ってやらないけど。


「桃花ちゃん、思い出してくれた……?」


 ふぅ……と、息を吐いた私は、両手を下ろし、榊先輩に目を向けた。

 ……あれ?
 なんか、嬉しそう?

 まぁ、確かに全部、思い出したけどさ。榊先輩のことは……やっぱり、今はどうとも思っていないかな。

 雪子ちゃんと一緒にいるのが分かったあの時から、私の榊先輩に対する恋は終わっていたんだ。

 でも……やっと拘束が解かれて自由になったわけだし、飛び蹴り――とはいかなくても、一発お見舞いしてやらないと気が済まないな。

 私はにっこりと、気持ち悪いくらいに微笑み、両手をあげながら榊先輩の方へと駆け寄っていく。


「榊先輩!大好きですっ」


 春人には悪いけど、ちょっと待っててね。私自身、一発お見舞いしてやらないと、ムカムカしたままで気持ち悪いからさっ。


「本当に?!」


 嬉しそうな声を出す榊先輩に吹き出しそうになったが、なんとか堪えた。