校庭の隅の、小さな水飲み場。


もう辺りに生徒は残っていない。


山下くんが蛇口をひねると、あたしの右手を流水に当てた。


「結構本気で叩いたでしょ?」


悪戯っこのように笑って言う。


けどその瞳には、いつものような明るさが感じられない。


きっと一部始終を見ていたはず。


「ごめんね」


あたしは申し訳なくて、謝った。


我慢していたものが一気に崩れて、あたしは涙を流した。


一度流れ始めた涙は簡単に止まることはなく、ひたすら泣き続けた。


「由香里?」


優しく、あたしを覗き込んで山下くんが呼びかける。


「忘れられないやつってあいつだったの?」


あたしはただ頷くしか出来なくて。


山下くんはあたしが泣きやむまでずっと、優しく肩を抱いてくれた。