「由香里」


ふと。


あたしを呼ぶ声がして、立ち止まる。


公園の入口近くの電柱に寄りかかるような、山下くんの姿が見えた。


ゆっくり近づいて来て、優しく手を差し出す。


「右手、見せてみ?」


思いっきり吉村くんを叩いてしまった右手。


さっきからじんじんして痛い。


差し出すのを躊躇っていると強引に手を引っ張られる。


「あーあ、腫れてるじゃん」


山下くんがいつものように笑う。


あたしは何も言えなくて、彼を見つめるしかでくなかった。


「行くぞ」


そう言ってあたしを引っ張ってずんずん進む。


下校しようとしている西高生の波に逆らって、西高の校門をくぐる。


途中何人かの生徒が山下くんに声を掛ける。


山下くんは愛想よく答えながらも、歩くスピードは変えなかった。