彼女の進学先は、俺達の通う男子校の隣の桜高だった。
悠斗はそれを知っているのか、いないのか。
分からないほどにいつからか彼女の話を全くしなくなった。
「悠斗くん!!!」
そう言っていつもバス停で俺達に駆け寄って来るのは、桜高の女の子。
小柄で割りと可愛い感じの彼女は、明らかに悠斗を気に入っている様子。
悠斗は鈍感だから、全然気付いていないようだけど。
吹奏楽部に所属しているらしい彼女は、いつも下校時間が俺達と同じだった。
同じバスに乗るはずの浜口っちゃんを見かけることはなかったから、きっと彼女は部活をしていないのだろう。
あんなに巧かったのに。
「友貴くん、聞いてる?」
そう言って俺の顔を覗き込みながら千夏ちゃんは尋ねる。
俺は笑顔で頷いて誤魔化す。
悠斗が彼女の話を出すことはなくなったのに、俺の方は彼女を思い出してばっかりだった。