「もういい」

双葉はプイとそっぽを向いて歩き出してしまう。

あれだけ怒るという事は、勘違いという訳ではないんだろう。

少なくとも彼女の中では、俺は見知った人らしい。

ファーストキス云々というのも、作り話じゃないんじゃないかと思ってしまう。

しかしなあ…俺と双葉の共通の記憶じゃない以上、俺が忘れているか、双葉が勘違いしているかのどちらかじゃないと説明がつかない。

生憎と俺には双子の兄弟がいて…なんてオチはないしな。

「双葉」

思わず呼び止めてしまう。

立ち止まる双葉。

振り向きはしない。

「あのさ…」

呼び止めてみたものの、何と言っていいかわからない。

「昼休み…悪かったな、きつい言い方しちまって」

頭を掻きながら言う。

「正直、まだ双葉の事、記憶に無いんだけど…チャンスくれよ。俺なりに思い出してみるから。双葉、あんなに一生懸命なんだから、俺も努力してみるからさ」

「…そんなの虚しい」

背中を向けたまま、双葉は言う。

「でも、覚えたからね。その言葉…思い出すように努力するんだね?」

「あ…ああ…」

双葉の迫力に負けて、俺は頷いた。

「わかった…ずっと覚えてる、その言葉…絶対思い出してもらうんだから…私と久我君の間に何があったか…どれだけ私が想ってるのか…全部思い出してもらうんだから」

そう言って、結局双葉は振り向かずに歩いていった。

…今になって思う。

こういうの、「フラグが立った」って言うんだろうなって。