「私、久我君と同じ高校に通うために、もっとレベルの高い進学校も、全部蹴ってこの学校に来たんだからね?わかってくれてる?」

まるでそう約束したかのような口ぶりだ。

そんなに言われるとこっちが申し訳なく思ってしまうが、それでもこの双葉という女に覚えがないものは仕方がない。

「他の誰かと勘違いしてないか?やっぱ俺、お前に覚えがないぞ…」

こちらとしては低姿勢で言ったつもりだったが、それが双葉に火をつけたらしい。

「何よ!」

昼食をとっているクラスメイトが大勢いる教室で、双葉はでかい声で叫んだ。

「私のファーストキス奪ったくせに、そんな事よく言えるわね!!」

「!?」

爆弾発言に教室内が凍りつく。

凍りついたのは俺も同じだ。思わず箸を机に叩きつけて立ち上がる。

「お、お前!いい加減にしろよ!俺がいつお前とキスしたってんだよ!?」

「去年、夜に駅前のロータリーで!!」

興奮しすぎて、自分がどこにいるのか忘れてしまっているらしい。

双葉は他の生徒達が聞いている目の前で、自分のファーストキスを赤裸々に語り始める。

問題なのは、その相手が俺だと思われている事だ。

「知らん!絶対お前の勘違いだ!」

「酷いよ…!」

双葉はその瞳に涙まで浮かべて俺を睨む。

「高校に入学して、久我君と再会できるの楽しみにしてたのに…!」

それ以上は何も言わず、双葉は教室を走り去っていく。

残された俺は。

「……」

クラスメイトの冷たい視線を、一身に浴びていた。