「あっ。歩夢、あいさつは?」

 思い出したように言った陽菜の声に、歩夢は顔をしかめた。
 不満そうに陽菜を見る。
 俺とは挨拶も交わしたくないらしい。俺もだけどな。
 

「歩夢」

 催促されるように、名前を呼ばれて渋々といった感じで、俺の方を見た。

 中1か。
 見た目は、まだあどけなさの残るかわいい美少年。
 女の子のような顔には、清涼さがあって穢れを知らない無邪気さが似合う。

 女子達にかわいいとかって、人気がありそうなタイプだ。


「こんにちは。木原歩夢です」

 ニコッと笑って、自己紹介した歩夢の目は笑っていない。
 形ばかりのあいさつ。

 こっちが大人にならなきゃな。

 
「こんにちは。俺は白河悠斗。陽菜の同級生。よろしくな」

 俺は手を差し出した。

 意外な行動だったのか、歩夢は俺の顔と手を何度か見つめて、

「こちらこそ、よろしく」

 笑わない目で笑うと、俺の手を軽く握った。

 拒まなかったのは陽菜がいたからだと思う。


 俺たちを見ていた彼女が、よくできましたみたいな顔をしてにっこりとした。