「順調だな。」


「うん。」



毎日のように、進路資料室に通う私。

6月の試験までに、覚えることは膨大にある。

だけど、先生がテンポよく説明してくれるおかげで、半分くらいは頭に入っているはずだ。



「それにしても、寒いな。」


「そうだね。」



今日は、クリスマス。

街は恋人たちで溢れかえる日。

だから私は、この日があまり好きではなかったりする。

やっぱりどうしても、何となく寂しくなってしまうから。



「莉子、今日歩はいつ帰ってくる?」


「公民館でクリスマス会があるみたいで、その後は近所の人が送ってくれるって言ってたけど、確か8時くらいに終わるよ。何で?」


「それなら今日は、早めに出よう。」


「え?」


「莉子もクリスマス気分を味わいたいだろ?」


「でも先生……。」


「なんだ、俺とじゃ嫌か?」



そう言って、笑みを浮かべる先生。

そんなことない。

むしろ、空を飛べるくらい嬉しいけど……だけど。


忘れていた光景がよみがえる。

先生は、私と噂になってもいいかと訊いたときの。

俺を好きになんかなるなよ、と言った先生。

その切ない横顔を思い出す―――



「先生が、いいならいいよ。」


「俺も莉子がいいならいい。」



顔を見合わせて笑う。

そして、先生は進路資料室のカーテンを閉めた。



「今日だけは許してやる。」


「え?」


「俺を好きになってもいいぞ、莉子。」


「先生……。」


「なんてな。……嘘だよ。」



先生は切ない笑みを浮かべると、コートを羽織った。



「裏の校門で待ってろ。すぐ行くから。」


「……うん。」



ドアをそっと引いて、廊下に出る。

さっきから、心臓がどきどきとうるさくて、なんだか苦しくなってくる。

だけど同時に、嬉しさも込み上げてきて。


そんな心の動きを隠すように、私は校門を目指して早足で歩いた。