「歌えよ。メロディー適当でいいから、
 この歌詞つけて」


ホラ、と紙を渡されて見ると、
すでに歌詞がずらずらと並んであった。


あたし、バンドはコピバンだったし、
ボーカルだったわけじゃないから、
歌に関してはほんとに素人なのに・・・。



あたしが困っていると、祐兎が煙草をやめていった。


「はよ歌えや、ボケ」


何なのこいつ。


てか、なんでちょいちょい関西弁なの?


あたしをほって、祐兎は曲の出だしを弾き始めた。


それにのせて、みんなも自分のパートを弾き始める。




待って、待って!!


あたし、歌とか本当に無理だから!!



って、言っても聞かないか・・・。
どうしよう・・・。









さっきからみんなは前奏部分を何度も繰り返していた。


祐兎はイライラしながら面倒そうにギターを弾き、
他のみんなは怒ってはいないものの、
不思議そうな、心配そうな顔であたしを見ていた。




「おい」


祐兎が途中でそう話しかける。


パニックになって必死に歌詞の紙に
かじりついていたあたしは祐兎の顔を見た。


「歌詞、つけなくていいからメロディーだけつけて歌え」


歌詞・・・つけなくていいの?


でもそれじゃあ・・・。


「え・・・?」


「思ったとおりに鼻歌でもいいからやれよ」




再び前奏が始まる。




祐兎の、魅力的なギターソロ。


あたしは深く深呼吸をして目をつぶった。





なんでかな?


ムカつくはずなのに、大嫌いなはずなのに、
あの蒼い瞳に捉えられると、安心してリラックスできた。



歌が入るのは、
亜貴のベースが独りでに踊り出した時・・・。






(今だ!!)