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アランside



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正直、ラルクがこの学校のどこかにいるのかと思うと虫酸が走る。しかし、こうなっては仕方ない。責任は本人にもこの学校側にもあったのだから、エネ校全体を巻き込むのは少し気が引けていたしな。

それに、俺も反省している。

魔法の実戦は初めてではなかったが、それでも緊張と興奮を同時に感じて理性が保てていなかった。今思えば、少し魔法に精神を引っ張られていた気がする。

あのまま続けていれば、気が狂っていたかもしれない。



「────っていう夢を見てました。あの、それで……剣と鈴、そして翼、の意味わかりますか?」



ミクが今まで隠していた夢のことを話してくれた。食事には一切手をつけずに話し始めたからすっかり冷めている。

まあ、冷めても美味しいものを頼んで作ってもらったんだがな。



「そうだねえ……ちょっとわからないな」

「そうですか……」



タク先輩の答えにあからさまに落胆の色を隠せないミク。でも、先輩も嘘をついている。

教科書には載せられていない事実はまだまだたくさんあるのだ。ミクのあげた三つに関係しているのはひとつしかない。

それは、紫姫。

恐らく、その龍のマナはわかっていてそう告げたのだ。ミクが知らなくて当然なことを。

俺も、この話は以前先輩から聞いたものだ。まったく、スリザーク家にはどれだけの文献が残されているんだか……先輩も全部は読みきれていないらしく、身内で読んだことのある人からぼちぼち話を聞いたそうだ。それを繋ぎ合わせて、紫姫のことを調べた。

この話とは、その三つについて。



剣と鈴は、『魔物』を封印していた道具だ。それらは伝説の四人……まあ、ヴィーナスがいた時代から紫姫の時代までずっと封印として使われていた物だ。

つまり、カイルの国の所有物だったものだが、いつの日からかその姿を消した。どこにあるのかもわからなかった。しかし、それがそのマナの世界にあるという。

その経緯はまったく見当もつかないが、それがまだ存在しているとは驚きだ。役目を果たしたからてっきり処分されたのかと思った。


そして、翼。これは紫姫と直接関係がある。

紫姫には不思議な力があることは知っているだろう。カイルの妃となった紫姫にも、その力は例外なくあった。

それは、瞬間移動と記憶操作。そして、どういう構造になっていたのかは不明だが、翼を持っていたらしい。

その翼は恐らく力の塊だとされ、必要に応じて出現させたり消したり自由に扱えたようだ。


その翼と、封印として使われた剣と鈴。一見、剣と鈴は関係なく思うだろう。しかし、これらは紫姫と深く関係しているのだ。というより、カイルに関係していると言った方が正しいか。

カイルの先祖は、剣と鈴の持ち主……剣の持ち主はレン、鈴の持ち主はシーナと言った。つまり、伝説の四人の内の二人の子孫に当たるのが、カイルなのだ。

そんなカイルと紫姫の末裔に当たるのが、ここにいるミクということになる。兄がいるが、男だから紫姫の力は及ばなかったのだろう。



「末裔か……お父さんも心当たりはないね。あるとしたら、お母さんの方かな」

「お母さんかあ……それじゃあわかんないね」

「いきなり姫の末裔だって言われても戸惑うよな。いつの時代の姫なのかも、どこに住んでいたのかもわかんねぇんだし」

「うーん……放っといてもいいのかなあ。でもね、マナの世界が滅びようとしてる理由がわからなくもないんだよね~」

「なぜだ?」



俺は驚いてミクを見下ろした。俺にとっては小さかった頃と変わらず愛らしいミク。そんなミクがいきなり自分の前に立ったと思ったら、急に遠くに行ってしまったような錯覚を感じた。

ミクはう~んと言葉を探しながら紡ぐ。



「あの……マナは昔は魔法そのものだって話ですよね?そのマナを見れる人が徐々に少なくなってきているってことは、マナの存在はだんだんと影の薄い存在になってきてると思うんです。

それってつまり、マナはいてもいなくても変わらないってことじゃないですか。それじゃあ、マナが要らないものへと変わりつつある……だから、マナの世界は滅びようとしてるんだと思って。必要とされないから、消滅してしまうんですよ」

「言い方は悪いが、飽きたおもちゃはいずれは人知れずゴミ箱行き……ということか」

「可哀想ですね……」



俺が呟くと、ヤトが足にまとわりつくネコを見下ろしながら言った。

確かに可哀想だ。見える者からすれば、他人事とは思えない事態。でも、俺はどこか腑に落ちない点があった。


ミクに力の開花を急かすその龍……だが、ミクが力を使えば、ミクのマナである龍は目覚めその力を解放してしまう。そうなればこの世界は危険に晒される。

それを知らないわけがない。あるいは……まさかな。

龍が目覚めれば、マナたちは暴走して主の支配から解放される。すなわち、それはマナたちが自由になれるということだ。そして、マナの世界が滅びようとしている……

マナの世界が人間の意思によって滅ぼされる前に、マナが自由を得て人間を負かそうとしているようにしか思えない。

復讐とまではいかないが、人間に恨みがあってもおかしくない話だ。人間によって生み出され、人間によって消え去る。人間の都合によって存亡が左右されるのだから、マナたちは内心怒り心頭なのかもしれない。


……それって、ヤバくないか?



「はいはい、この話はいったん保留ね。ミクはちゃんと食べて」

「あ、はい……」

「アラン、ヤト、ちょっとついてこい。カインさん、あとはよろしくお願いします」

「はい。寮に戻れるようなら帰しておきますね」

「あと、彼の処遇についてもお話してください。知っておいた方がいいと思うので」

「そうするつもりです」



カインさんとミクを保健室に置いて、廊下に出た。

出た途端に先輩が長いため息を吐く。



「なあ、知られるのも時間の問題じゃないか?」

「紫姫の末裔ってことか?」

「それ意外ないだろーが。図書館でちょっと調べるだけで出てきてしまうような有名な手掛かりだぞ、剣と鈴なんて」

「困りましたね……それに、夢で会うという龍の言葉も気になります」



俺の言葉にヤトも頷いた。