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ヤトside



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咄嗟に身体が動いていた。

気づけばあいつを庇ってドサッと地面に倒れていた。背中をしたたかに打って一瞬息が止まったがすぐに戻った。

擦りむいた肘が少しヒリヒリとする。


腕の中にいるあいつを見てみれば、気を失っているのか無防備な表情で目を閉じていた。それを見てほっと安堵する。

そして、視線を上に向ければあいつの父親がちょうど火の粉にしてはデカイ火の玉を刀で凪ぎ払っているところだった。

俺は呆然とこの光景を見ていた女子の先輩たちにあいつを預けると、カインさんのもとへと急いだ。



「大丈夫ですか?」

「君こそ平気かい?ミクを庇ってくれてありがとう」

「いえ……身体が勝手に動いていました」

「それはそれは……でも、子供が魔法を咄嗟とはいえ使うのは感心しないね。俺も危うく焼かれるところだった」

「すみません……」



能天気にあっはっはっと笑っているカインさんに頭を下げた。確かに、ネコを火の玉に向かって放ったのはまずかった。後で兄貴に叱られそうだ。

それにしても、とカインさんはあの野郎を見る。



「わざとか、偶然か……」



その視線の先にはエネ校の生徒会長のラルク。その瞳の光は鋭かった。

カインさんは刀を腰の鞘に収めると、つかつかと歩み寄った。その後ろに俺とアラン先輩も続く。ソラ先輩も遅れてついてきた。

そして、カインさんが何かを言う前に先輩がその胸ぐらに掴みかかった。



「おまえ……何してんだよ」



今までにないくらいの鬼の形相で睨み付ける。眼鏡の奥には冷酷な瞳が蔑(さげす)むような光が宿っていた。

そんな先輩にラルクは怯えきった様子で弁解する。



「違う!俺はあんなことやってない!」

「ああ?おまえ以外いないだろーが!」

「断じて違う!俺はやってない!」



先輩の瞳に相当胆を冷やしているのか、ラルクのこめかみには汗が伝っていた。ぶんぶんと首と手を振って必死に抗議している。

そこで、ソラ先輩がアラン先輩まあまあ、と宥めた。ラルクの顔色は見ていてこっちが憐れに思うほど真っ青になっている。

先輩はちっ……と舌打ちをして乱暴にラルクを離した。ぐえっと変な声を出してラルクは首もとを手で押さえる。



「下手くそ」

「そんなっ!俺は魔法の成績はエネ校でトップだぞ?」

「そのトップが人の命を奪うようなことをしたんだぞ!自覚を持て!」



先輩は大声でそう吐き捨てると、心配そうな視線をあいつに向けた。当の本人はチサト先輩とルル先輩、そしてリト先輩に囲まれている。

ソラ先輩は崩れているラルクに手を差しのべた。



「ほら、立って。君の学校の生徒たちが皆君のこと見てるんだから」



そこで俺は思い出した。そうだ、ここは群衆の目が向けられているところだ。ここで騒ぎ立てれば何が起こるかわからない。

ラルクは素直にガクガクと頭が外れるんじゃないかってぐらい首を縦に振ると、その手を取ってふらつきながらも立ち上がった。


カインさんが大音声で観衆に言い渡す。



「これにて『決闘』は中止にいたします。皆様は速やかにご退場願います!」



有無を言わさないその声色に、ざわついていた観客たちは静かになり、ひとり、またひとりと席を立ち始めた。それは波のように広がり、あっという間にいなくなった。

先生たちもこっちに駆けつけてきた。