「またここ……?」



毎度お馴染み、剣と花畑と青い空。

意識を失う度にここを訪れてしまうのはなんでだろう。

雲ひとつない空を見上げながらため息を吐く。ここはマナの世界……でも、そのマナの姿はどこにもない。ここで会ったのは、あの青い龍だけ。

証拠もなにもない、マナの世界。



『まだですか?』



ふとそんな声が頭に響いて振り返る。そこにはあの龍が私を見つめていた。じーっと見据えられる。



「まだ?って……魔法のこと?」

『そう』

「無理なんだよ、私が魔法を使うなんて……素質がないんだから」

『……』



龍は寂しそうに視線をそらすと、地面に生えている花を見下ろした。その花は……すでに枯れていて、茶色く変色している。

よく見れば、この間来たときよりも枯れている花の数が増えているような気がした。

この世界は、本当に滅びようとしているの?



『手遅れになる前に……』

「でも、どうしようもないんだよ。私は魔法を使えない。それはこの先変わらないんだよ」



そう、どう足掻いたって私は魔法を使えない。あんな、魔法と魔法がぶつかり合っただけで大気を揺るがすエネルギーを放出するなんて……

私には、到底あり得ない話だ。


龍はのそりのそりと動いて、剣の前に佇んだ。剣に巻き付いている草も少し活気がない。萎れているように見える。

そこに、鈴が力なくぶら下がっていた。



『衰退しているのは事実です。花畑はそのうち無くなるでしょう』

「無くなったらどうなるの?」

『均衡の崩れ。この世界の森羅万象は崩壊する』

「世界の崩壊……それを防ぐには、私の力が必要なの?でも、私は一体なんの末裔なの?そこを教えてよ……」



末裔って言われても実感は皆無。話してくれればいいのに。



『あなたは、王と姫の末裔。そして、姫の血を色濃く受け継いでいるたったのひとり』

「姫?誰だろう……姫なんてたくさんいたしなあ」

『剣と鈴、そして翼。指輪は鍵……その鍵はあなたのそばに……』

「え?」



龍の姿がふいに暗転し、耳も遠くなる。たぶん、目覚めつつあるんだ。

龍はそんな私を、黙って見つめていた。