ムッとしていた吉井の顔が、ふっと緩んで、


ははっと下を向いて笑った。





「笑うなよ、バカ。



吉井はこんなの慣れてんのかもしれないけど、



私は、初めてなんだよ。



付き合うのも、


きっ......キスとか、そういうもの全部、


初めてなんだよ.......」




唇を噛み締めて、下を向くと、


繋がれた手の反対の手で頭をぽんぽんと撫でられた。






「お前さ、自分だけだと思うなよ」



えっ.........





吉井の言葉に思わず顔を上げると、







ちゅっ





唇に触れるだけのキスをされてしまった。





「なっ.........!!!!!!」




吉井はまた私の頭をぽんぽんと撫でて、



あはははっと笑い出した。





「俺も同じだ、ばぁーか。





じゃあな」







吉井は笑いながら、私の前髪をちょっと乱暴にくしゃくしゃっとすると、



向きを変えて、道の方へ歩き出した。






同じ?




吉井も同じ?





うそ.............





壁からダッシュで道に出て、


駅の方へ歩いている吉井の後ろ姿を見つけた。







「吉井!!」





大声で吉井を呼び止めると、


小さな街灯の下で、吉井がくるっと振り向いた。






好きだよ、吉井。



彼女になれて、ほんとは飛び上がりたいぐらい、


嬉しいんだよ...........







「なっ、なんでもない」






はぁぁぁ........私って、ほんとかわいくない。





吉井は、一度下を向いてまた顔を上げた。




「なんだよ。じゃあ、また明日な」





吉井はまた前を向いて歩き出した。





ずっと見えなくなるまで吉井の背中を見つめていた。


ずっと見ていたいと思った。




だって、大好きだから。





見えなくなると、一気にさみしさが押し寄せてきて、



そんなことで泣きそうになっている自分にちょっと驚きながら、



くしゃくしゃになった前髪を引っ張って、玄関へと階段を上った。