指先で顎を持ち上げられて、
真剣な顔で、
まっすぐな瞳で見つめられて.........
「だっ、だから近い......」
「そらすなよ」
近すぎて、
恥ずかしすぎて、
顔をそらそうとしたら、
低音の優しい声でそんなこと言われたから、
頬を熱くしながら、また吉井を見つめた。
すると吉井は顎から指を離して、
自分の顔を片手で覆って下を向いた。
「やっべ、俺が見てらんねぇ......」
なんだよそれ、
そっちがそらすなって言ったのに。
「わけ、わかんないんですけど」
私がそう言うと、吉井は不機嫌そうに顔を上げて、
私の前髪をちょっと乱暴にくしゃくしゃっとした。
「なっ、やめろ!ちょっ、なんだよ!」
前髪を引っ張って直している私を見て、
吉井がかわいく目を細めた。
「傘、借りるな」
「あぁ......うん」
吉井は私の背中を優しく押して、
家の軒下まで連れて行ってくれた。
「じゃあ、日曜日公園でな。
航太にも伝えといて」
「わかった」
吉井は下を向いて笑ってから、向きを変えて歩き出した。
「吉井!」
なぜか急に呼び止めたくなって、
つい名前を呼んでしまった。
雨の中、私の青い傘を差しながら吉井が振り向いた。
「なんか........えっと..........」
私、何を吉井に........
吉井は少し首を傾げた。
「よく、わかんないんだけど........
あの.........ありがと」
私の言葉に、吉井は下を向いて笑って、
また顔を上げると、
「俺なんもしてねぇ、ははっ」って、
前を向き直して帰って行った。