吉井は、少しため息をついてから、
またこっちを向いた。
「あぁ.....ありがとな、傘」
吉井は私の傘から出て、小雨の降る中、
自転車に乗って校舎脇の駐輪場の方へと行ってしまった。
立ち止まったまま、ひとりで傘を差していたら、
急にさみしさが押し寄せて来た。
さっきまで隣にいた
さっきまで私の傘の中にいた
私よりもずっと大きな吉井
どんどん私の中で大きな存在になっていく。
でも、宇崎さんを見る切なげな表情...........
傘の先から雫がひとつぶ、またひとつぶ落ちていくのを見つめた。
私のこの気持ちは........
追いかけたいと思う、この気持ちは..........
私は傘を差したまま、駐輪場へと走った。
ぴしゃ
ぴしゃっと、地面の雨をはじかせて、
吉井の元へ。
校舎を回って、
駐輪場までくると、ぴたっと立ち止まった。
雨のせいか、誰もいない校舎脇の駐輪場。
数台しかない自転車
駐輪場の屋根の下、
バッグを斜め掛けして、
大き目の黒いタオルを頭からかけている吉井が、
タオルの間からこっちを向いて目が合った。
走ったせいか、はぁはぁと息が上がってしまい、
いつも以上に心臓がドキドキした。
吉井は頭にかけた大き目のタオルを、
少しくしゃくしゃっとすると、
こっちに歩いてきて、
駐輪場の屋根ぎりぎりのところで止まった。
「お前、走ってきたの?」