傘を持つ手に力が入る。
目の前に少し怒っている吉井が見えて、
パッと目をそらすと、私の肩から手を離した。
「わっ、わかったよ」
しかたなく、吉井のそばで傘を差し、
ドキドキしながらまた歩き出した。
「よし、それでいい」
くっつき過ぎだよって思ったけど、
恥ずかしいって思ったけど、
離れんなよって言われて、
ちょっと、
ほんのちょっと、
うれしくなっている自分に気づいてしまった。
やばい、このままだと私、本当に吉井のこと..........
校門を通り抜け、昇降口の方へと近づくと、
吉井は立ち止まった。
「チャリ置いてくるから」
立ち止まった吉井の前に立ち、
背の高い吉井の頭の上に、少し腕を伸ばして傘を差していると、
吉井の後ろを、宇崎さんと渡瀬くんが通り過ぎた。
「おはよう、紺野さん」
宇崎さんが立ち止まって、かわいく微笑みながら挨拶してきた。
「おはよう」
私が挨拶すると、吉井が振り返って、
宇崎さんはちらっと吉井を見て、また渡瀬くんと歩き出し、
昇降口へと入って行った。
吉井は一度下を向いてから、昇降口の方へ目を向けて、
二人を見つめていた。
切なそうに二人を見つめている吉井を見て、
私の方が、切なくなってしまった。