「うちは無理なんだって。
当番とか、試合の車出しとか親ができないから」
航太はぐずぐずと泣き出した。
「俺このままじゃ、あいつらに抜かされる。
俺もバスケ強くなりてぇよ」
困ったなぁ......
その時、ダムダムダムとボールを地面につく音がして、
砂場の方を振り向くと、
吉井が航太のボールをその場でついていた。
公園の柵の外に、自転車が停めてあって、
その下に、吉井のエナメルバッグが置いてあった。
「航太、お前何年?」
吉井は、器用にボールをつきながら航太に聞いた。
そっか、吉井ってバスケ部か。
「2年」
航太は目をこすって、不貞腐れながら答えた。
「俺からボール奪ってシュートしてみろ」
「はあ?」
「小2だからって容赦しねぇぞ。俺は本気だからな」
「なんだよ!ぜってぇシュートしてやるからな!!」
「よし」
吉井は私のところにきて、ボールを下に置いた。
「吉井?」
私が吉井に話しかけると、
吉井は、制服のブレザーを脱いで、
私に差し出してきた。
「持ってろ」
ちょっ、小2に本気出すのかよ。
そっとブレザーを受け取ると、
吉井はワイシャツの袖を捲り、地面に置かれたボールをスッと拾うと、
ドリブルしながら航太に向かって走り出した。