「え、もうそんな時期なんだ…」

いつものように遅刻して来た杏里が美希の話を「へ〜」と相槌を打ちながら聞く。

「俺のクラスは今年は喫茶だって」
「へ〜、いいね喫茶店。結構儲かるんじゃない?」
「ふふふ、美希ちゃん。それだけじゃないのよ」

今日は依織も一緒に昼飯を食べていて、その依織が意味深に美希に話した。

「なんと!うちは女装喫茶なのさ!」
「…うわ…」

そう言ったのは杏里。「想像しただけで吐きそう」とわざとらしく口を押さえて見せた。

「酷い!俺、絶対綺麗になるって!」
「どっから来るのよその自信…」
「あ、あたしは似合うと思うよ、依織くん」
「だしょ?やっぱ美希ちゃんは分かるね〜」

そんなバカバカしい会話に少しだけ心が軽くなった。

「うちのクラスは何になるかな?」

美希が楽しそうに笑う。

「さぁ?あたしはお好み焼きとかがいいな…」
「無理だろ、文化祭では…」

杏里が「響が何とかして」と無理なお願いをしたのは聞かなかったことにして。

「ま、今年も楽しく過ごせるといいね!」
「そうだね。来年は受験だし、今年だけだね遊べるの」
「…まさか依織の口から受験って言葉が出てくるとは思わなかった…」

今年だけ。依織の言葉がやたらと重くのしかかって来た。

「…なぁ」
「ん?」

美希がお茶を飲みながら首を傾げる。

「…亮介たち、どうしてる?」
「え……」

予想しない問いかけに美希が目を逸らした。

「…続けてるよ、deep-BLUE」

そう答えたのは杏里だった。

「ギターもヴォーカルも…アンタのポジションを空けたまま」
「……そ」

文化祭の後の祭、後夜祭。
去年は文化祭の為の夏休みの練習後、あの先輩の一言で自分は練習に出なくなり、後夜祭の予約していたステージも出場を控えた。それ以来亮介に会うことはなかった。同じ学年なのにクラスが端と端だったのもあるだろう。今もクラスは違い、なかなか会う機会はない。
杏里はその時亮介と同じクラスで自分と亮介の掛橋をしてくれた。

「…みんな待ってるよ」
「………」

最後にみんなに会ったのはあの日。もう1年が経つ。