『お父さん、早く!』
『ほら、ちゃんと前見なさい』

車が行き交う大通り。休日とあって人通りは多く、ざわざわとした街は気分を高まらせた。

『そんなに慌てなくてもギターは逃げないって』
『いいの。…あ、あそこ!』

大通り、道の向こうに見えたのは大きな楽器店。ショーウインドーにはいくつかの楽器が展示されていてその中に目的のギターを見つけた。
さらに気分が高まり目の前のキラキラと輝くそれだけを求めて走り出した。

『!ッ響!!』
『え、』

点滅を終えた信号にも気付かず、白い横断歩道の上で立ち止まる。目に飛び込んで来たのは赤信号、急いでカーブを曲がったトラック、キラキラ光るギター、大好きな父親の顔。
ドン、と音がして意識が途絶えた。



「ッ…!」

夢、そう分かったのは部屋についてる時計の時を刻む音がやたらと大きく聞こえたから。

「は、は、はァ…」

頬を伝うのは汗か涙かも分からず、ただ秒針より速く脈打つ心臓音に頭がくらくらした。

「っ…ぅ」

まだ日が昇り切らない空は薄く白んでいて、また一日が始まることを知らせた。