帰り道ですら頭にあるのはあの言葉で、頭を冷やすため寄り道をしながら歩いた。

父が死んだのは自分が8歳の時。いきなり自分の大好きな人がいなくなった。あまりのショックに数年立ち直れず、父と毎日のように弾いていたギターにすら触ることが出来なくなった。見ただけで気持ち悪くなり吐くことだってあった。母はそんな自分を見て家中の父の遺品をどこかに隠した。綺麗に飾ってあった写真、雑誌の切り抜き、ビデオに楽譜。そして父の愛用のギター。
このままじゃいけないと思い中学3年で友達に誘われたバンドに入った。震える手を押さえながらギターを手に取る。久々の感触に感動を覚えたがそう長くは続かなかった。

『ぅ…』
『国江?』

練習中急に吐き気がし、そのまま倒れた。
結局そのバンドは受験があるからと自然消滅し、高校に入学。

『なぁ、国江、俺らのバンド入らん?』

そう声をかけて来たのは同じ学年の亮介。変わりたい、そう願い続けた自分は「いいよ」と返事をしていた。それが“deep-BLUE”。高校ではよく見かける軽音バンド。メンバーとも打ち解け楽しかった。久々にギターを弾くのが楽しく思えた。でも楽しい時は長く続かない。

『なぁ、お前diveの息子なんだろ?』

練習の帰り、学校の廊下で声をかけられた。上履きの色からして二つ上の先輩。

『…なん』
『俺、大ファンだったんだよね〜dive。でもさ、ギタリストの国江孝輔さん亡くなって解散しちゃったじゃん?あれショックでさぁ…』
『………』
『なぁ、どんな気分?世界に認められたギタリストを奪っちゃったのは』
『っ……』

頭が割れるように痛み、目眩がした。隣にいた亮介が「響!」と呼ぶのが遠くに聞こえる。

『なのに自分は今ギターを弾いてますって…ふざけんなよ』

それだけ言い残して先輩は去って行った。以来自分は練習に顔を出さなくなった。ギターも、また触れることが出来なくなった。

「…ただいま」
「あ、お帰り」
「………」

父の遺した莫大な遺産のおかげで母と二人、何とか生活している。

「響、ご飯は?」
「…いい」

母の顔が見れず足早に部屋に戻る。バタンと扉を閉め、その場に崩れた。

「ッ……」

これは変えられない事実。

父を殺したのは自分ーー−−−−