「国江、国江ッ!」
「うわっ!」

どっと周りが沸き上がり、一瞬動きが止まる。視線を泳がすと先生らしき人が腕を組んでこちらを睨みつける。

「…おはよう。今何の時間だか解るか?」
「…現代文学です」

よろしい。と先生が教壇の教科書に視線を落とす。あぁ、今授業中だっけか。そう思って時計を見るとあと10分で昼休みのチャイムが鳴る時間だった。

「じゃ、国江、その閉じてある教科書の128ページ、3行目から読みなさい」
「…はぁい」

つらつらと並べられた活字を声に出した。つまらない日常。あの日から、自分の中の時間は止まってしまった。

「…はい、じゃあ今日はここまで。次の授業は…明後日か。明後日は小テストすっからな」

チャイムが鳴り、生徒は机を片し始める。先生の言葉に教室はブーイングをしたが「そんなに喜んでくれるとは」と、先生は教室を出て行った。

「ヒビ、また怒られてた」
「…うっせー」

声をかけて来たのは幼なじみの女子、美希だった。珍しいことに小、中、高、と同じ学校に通っている。

「ほら、お昼食べよ」
「ん…」

促され、鞄から弁当箱を取り出した。

「杏里ちゃんも食べよ〜」
「ん〜」

美希が呼んだのはこれまた幼なじみの女子、杏里。杏里とは幼稚園も同じだ。彼女も授業を寝ていたのか、ふらふらとこちらに歩いて来た。

二人は側に座り、各々弁当を広げ「いただきます」と手を合わせた。