「……あの……、たいせー。俺……、見舞いとかって初めてだから、どーしたらいいかわかんなくてさ…」


「…………。」


「来るの遅くなって…、その……、ゴメン。」



「…………。……謝られる覚え、全くないけど……。それに――…、そもそも大会だったろ?スゲーじゃん、デビュー戦準優勝だって?…おめでとう。」


「……ありがと……。」



それはまるで…、誰かから聞いたから知っているっていう…口振りだった。



大会の結果とか、そのときの…滑りだとか、そういった情報を…いち早く知って、その時ばかりは口数を増やすようなヤツが…、だ。


きっと、あの記事に書かれていた内容も…知らないんだな。



「たいせーがいたら、きっと…違ってたよ。」


つい、ポロッと……


そんな言葉がついて出た。




「……………。」


ヤツは…、なにも言わなかった。




鮮烈なデビューを飾ることを……皆に期待されて、

それに、誰よりも…応えたかったのは…


たいせー自身であったのに。



出たくても…出れなかったのに――…。



「………ごめ…」
「だから、謝んな!」


「……けど、」
「モト、お前…何しに来たんだよ、ここに。」


「……………」
「可哀想だと思ったから?」


「…………。」
「それとも、ざまーみろって思ってる?」


「……は?そんなの、思ってるワケ…」
「だよなあ―…。お前は昔っから、そーゆー卑怯な考えだとかはしないヤツだったな。」


「……………。」
「ふざけてばかりで、どっか周りに合わせてて。中途半端に…逃げるんだよ。」


「……そんなこと……」
「じゃーなんで、こんな所にいんの?もう、ライバルにもなれないようなヤツを慰めに?それより、もっとすること…あんだろ。練習でしか出来ない技がどうしてある?何で、俺に勝てなかった?……これ以上…、俺を惨めにすんなよ…。」


「……………。たいせー…?お前、ナニ言って…」


「今は…、俺とお前じゃあ、もう違うんだよ。フィールド違いっつーの?」



「………………。」



「俺も…、考えたよ。何でここに居なきゃいけないのかって…。」



「………………。」



「……今はまだ……、見えて来ないんだ。トリックのイメージすら…浮かんでこない。いつか――…、ここで、ただひたすら…我慢するしかねーんだ。だから、次の目標は……、治ってから考える。」


たいせーは、あのノートに……ちらり、と目をやって。


手元は…、ベッドのシーツを、ぎゅっと握り締めていた。



「お前の目標は…、最終目標は…。デイビットを倒して、頂点に立つこと。それに…変わりないんだよな?」


「………………。」


たいせー……。
頼むから、なんとか言えよ。『そうだよ』、『まだまだ上に行ける』って…いつもみたいにさ。そう信じて…やまないくらい、自信たっぷりに。




「俺はさ、たいせーを越すことが…ずっと目標だったよ。」


「…………。」


「ハードル…低くすんなよ…。お前がそんなんじゃあ、倒しがいないじゃん。」


「初めっからハードル自体が低いんだって…気づけよ。」


「「………………。」」



ああ言えば、こう言う…。


結局の所…、お前の方が、根っからの負けず嫌いなんだって…


目指す先が…もっともっと上なんだって…知ってたよ。




でも、その、お前が……


目指すべき相手が。



俺の……指針が。



見失ったら…どこに向かったら…いいのか。


わかんねーんだよ。





だから…、俺は。


ここに来たんだ。



「モト。もう…ここには来るなよ。」


「……え?」


「顔、見たくねーんだ。」


「………………。」


「だから、……来んな。」


「でも、退院したら嫌でも学校で会うじゃん?」





「「…………………。」」