「……あ。そうだ…。俺、ナニ持ってきたらいーかわからなかったからさ…、取り敢えず、コレ。」


話題に困った俺は……

見舞いに、と思って買ってきた物を、たいせーの前に差し出した。

CDショップの袋から…ソレを取り出して、手に取ると。小さく…笑みを溢していた。


たいせーの好きな、レゲエ歌手の…最新アルバムだ。


「マジか。……ありがと。」


これは…大成功だ、って思ったのに。


「けど、残念…。デッキがねーんだよ。」


「………あ。」


しっかりと―…、オチが、ついていた。



だよなあ……。デッキがあっても、こんな重低音…病室に響いていたら…不気味かもなあ。



「退院したら、真っ先に聴くよ。」


悪いな、たいせー…。





ならば……!と意気込み、見舞品の第2弾。


ヤツの好物…。(?)

アセロラドリンクを、ドンッと…テーブルの上に、置いてみた。



すると――…

どうだろう。


今度は、手元に口を当てて…

一瞬だけ、身体をビクって…させたんだ。



「…………?たいせー?」


笑顔が……すっかり消えていた。


「……悪い、今、コレ…ダメなんだ。」

顔が青ざめていくのが…わかった。


嗚咽しそうになっていることに…気づいて、俺は咄嗟に…

ソレを、冷蔵庫の中へと…押し込めた。



たいせーの背中をさすって、暫く…経つと。


ようやく、落ち着いた呼吸を…繰り返してから、


「つい最近終わったばっかの化療の薬剤の色に…似てるからさ。アノ色見るだけで、こんなんなっちゃう。……スゲー、トラウマってか…。」


ぽつり、ぽつりと……話し始めた。


「……そんなに…酷かったの?」


「ん。治療中は……とにかく、吐いて吐いて…吐きまくって。……で、それ、『アドリアシン』って言うクスリなんだけど、出てくるおしっこまで赤くて…色んな意味で、衝撃的だった。」


「………………。」


「でも、治療が終わって1週間くらい経つと…、全然平気。白血球の数値が低くなけりゃあ院内自由に動き回れるし、多少好みは変わったけど…、食べ物もイケる。口内炎がイッコ出来てるからちょっと痛いけどね。」


「……………………。」



俺の…知らない世界で。

ヤツは…ずっと、戦っていたんだ……。



得体の知れない、恐ろしい…敵と。