ひとまず…

戻って来たたいせーは、腕の力で…身体を持ち上げて。

ベッドの端へと、腰を下ろした。



右足を…庇うようにして、極力動かさないようにしているコトは、見ていて直ぐに判った。



「足の調子…どうなん?」



敢えて…

癌の話題はせずに。

あくまで…、足の状態だけを…聞いてみた。



「ああ、化療のクスリが効いてるみたいで…、腫瘍もだいぶ小さくなってるみたい。ラッキーだろ?」


「……?『かりょう』?『ラッキー』?」


「ああ、化学治療のこと。つまりは――…」


その先は。


俺の耳元で…こそっと呟いた。



「抗がん剤のこと。癌をやっつける…薬だよ。ここではみんな、癌って言葉は使わないで…そう言ってる。それに、薬だって、効く人が居れば…そうじゃない人だっているんだ。」



「……………。あ……、うん。そうなんだ…?」



これには……、すっかり拍子抜けした。


ヤツの方から、病気の名前を…口にしたのだから。



「痛みもほとんどないし…歩けそうな気がするんだけど、骨折するからヤメロって。まあ、手術して…悪いの取り除くから、大丈夫。」



「……ああ、そっか。なら――…良かった。いきなり来たから…さっきの友達に悪いことしたよな。」


「ん。ノアのこと?あの人、地元の高校生だから…暇ならまた来るだろうし。」


「え。高校生?」


「前の病室で一緒だったんだけど、今は退院して…、週一でここのリハビリついでに寄ってくんだ。」


「ふーん…。」


「暇人だろ?」


「………だな。」


同意してみたけれど、わざわざ…顔を出すくらいに仲が良かったのか。


それとも…、心配して来ているのか。


どっちにも…当てはまる気がして。
複雑な…思いがした。



「あの人さー、ちょっとお前に似てるんだよ。」



「……へ?あの、強面が?」


「顔じゃなくて。」


「…………?」




「……随分、助けられたんだ。」


「………そっか…。」




俺が…顔ひとつ出さないコトに、たいせーは…どう思っていたのだろう。



けれど、救ってくれる存在が…あったことは。


どんなにか、心強かったことだろう。



自分で…逃げてた癖に。

その存在が…俺じゃないってことに。



少しだけ…

モヤモヤとしていた。