やがて……、人が話す声が。


廊下の方から…聞こえて来て、俺は、慌てて…ノートを閉じる。



この、動揺を…隠すことができるのか?

さっきの勢いで…

笑いかけることが、本当にできるのか?




ドクン、ドクン…と、心臓の音が。

大きく…脈打っていた。





「驚くなよー、たいせー。今日はスペシャルなゲストだぜ?」


さっきの男が、意気揚々と…語っていて。


ガラガラっと…扉が開いた瞬間に。




「ようッ、たいせー!長い便所だな。ウ〇コか?」


片手を挙げて…、挨拶がわりの一言を…発してみた。




『…………失敗したッ。』


心ん中で…、そう絶叫した頃には。あとの…祭り。


小学生くらいの患者の女の子は、白い目で…俺を見ているし、

たいせーは、車椅子に乗って、ぽかーんとしているし、


何故か…、アノ男だけが。


爆笑…してるし。




「どこが…スペシャルだって?」


たいせーは、ヤンキーくんを軽く睨んで…

はあ~っと、溜め息ついた。



「ちょっ…、失礼じゃん!……久々なのに…。」

思わず突っ込みを入れるけれど―…


失礼なのは…果してどっちか。

もうとっくに…自覚していた。


だってさ、だって――…



車椅子に乗っている人に…、トイレが長いだなんて。そんなの…言ってはいけないことだろ…?




「スペシャルじゃん、だって、今や時の人だぜ?」


「………けど、それ以前に…、幼馴染みみたいなモンだし。」


「……あ?そうなん?」


「……賑やかなのが、一人増えたかー…。」




二人の掛け合いは、まるで…

ちょっと前の、自分等を…見ているようだった。



ってか、やっぱりドライで淡々としている辺りは……


たいせーらしい。


車椅子に乗っていることと、
病院着を着ていること。


それから、少し…顔が浮腫んでいること以外…、

キャップを目深に被っているその姿は。



違和感を感じさせない…風貌であった。




「じゃー賑やかなボクは、退散しとくわ。じゃーねー。……あ。モトナリくん、どーぞごゆっくり~。」


気を遣ったのか……。ヤンキーくんは、入り口にたいせーを残して。


さっさと…姿を消してしまった。





どこのどなたかも分からないけど……


もしかしたら居てくれた方が、良かったのでは?


そう思っても…


結局、手遅れになるのは…いつものコト。


優柔不断で、間違った選択肢を選んでしまう男の…性である。