君は、
ハーフパイプの申し子のような存在だった。
幼い頃既に、類い稀なるその空中感覚を身につけ、
持ち前の運動神経もあいまって。
大人顔負けのエアの高さで…周囲を圧倒させた。
国内ジュニア大会では負け知らず。
小学5年でスポンサーがついて、プロへ転向。
以後、海外の大会で…次第に、その頭角を現す。
着実に順位をあげて。
実績を重ねて…。
あっという間に入賞するまでの力を…身に付けていた。
メディアはこぞってその快挙を取り上げた。
……とは言え、スポーツ紙でさほど大きくもない記事ばかりだったけれど、スノーボード界にその名を刻んだことことには…違いない。
おまけに、顔も良かった。
茶色がかったクールな瞳。
冷静かつ落ち着いた物腰。
イケメンスノーボーダーとして祭り上げられることは…目に見えていた。
一方の俺は。
同い年だからと…、何かと比較されてきた。
『高さ』の友利。
『技』の里谷。
そう、称されて。
難易度の高い技を先にメイクしたのも、その種類の豊富さも、俺の方が上だった。
なのに…、
勝つことができない。
どんなに難しいトリックを決めても、高さがないと…
評価されない。
空中でのバランスの悪さも指摘された。
大成は…
真逆だ。
デイビットに勝ると劣らない高さを誇り、洗練された完成度の高いトリックを繰り出す。
おまけに…着地が正確だった。
スピードの落ちることのない、スムーズなボトムラン(※)は…、次のエアの最大の味方になる。
本番の舞台で、突然大技に挑めるのも…
安定したライディングが常に出来ているからだ。
新聞や雑誌に、俺の名前はいつもオマケのようにして…ついてきた。
名のあるコンテストで入賞しても…。大して注目もされず、大成の陰に隠れてしまう。
ジャンプの高さは…産まれ持ったものじゃないかと思った。人の目を惹き付ける才能も……。
努力をすれば敵うか、と思っても、ヤツはその上をいく努力もしている。
何度も転びながら、焦ることなく…
虎視眈々と。
つまりは……、だ。
強さは……未知数だ。
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※ 「ボトムラン」…「ボトム」=ハーフパイプの底のフラットな部分。つまり、ボトムでの走行を表す。『ボトム落ち』という言葉もあるが、選手はエア後は通常壁に着地をするが、誤ってボトムに着地をしてしまうことを指す。衝撃は大きく、怪我に繋がることもあるため、危険とされる。