しかし吉行の持つ“闇”は彼の狡猾さの他に、“器用”さも回復させていた。

脳の飛んだ正人は、死んだ詩織に話しかけながら、まだ性交を続けている。

極限の精神状態と、詩織を手に掛けた開き直りが、吉行をやけに冷静にさせた。


(俺が捕まる事はないじゃないか。そうさ……あいつの殺しは法に、国にして貰えばいい……。どうせ死刑になるんじゃないか。どうせ殺されるじゃないか)


やり場のない怒りと冷酷さは、殺害による刑罰での“自分の死”の回避を選択した。

吉行は携帯を取り出し、死姦を続ける正人の横で“110”をプッシュした。