吉行は連行されながら思い返していた。 十三年前のあの日の事を…… 初春の昼下がり、幸せを想像しながら帰宅したあの日の光景。 飾られる事のなかった雛飾り…… 手首にはめられた手錠に重みと冷ややかさを感じつつも、どこか非現実の空間にフワフワと浮いているような感覚を抱きながら…… それは手に入れた唯一の現実を失った男が連れ戻された虚無の空間であった。