ホテルの部屋で聞こえる“声”は喘ぎ声と相場が決まっている。

しかし詩織と正人の居る部屋からは、それ以外に赤ん坊の鳴き声が響いていた。

今まさに性に溺れる母親と父親によって、振戦(ふるえ)、筋緊張亢進、そして貧弱な睡眠パターンと云うリスクを背負おわされた赤ん坊は、常に泣き叫ぶ行為を繰り返していた。

(助けて……)と言う声にならない泣き声。

その泣き声が更に詩織の理性を破壊して行くのである。