けれど私は、今日、届いたことに運命を感じていた。



送ったファンレターにはこう綴った。



“私は中学で吹奏楽部に所属しています。

今年の11月10日に定期演奏会があるのですが、当日はカナタさんに届けって気持ちで精一杯演奏したいと思います。”



もしかしたら、手紙を読んでくれて日にちを合わせて送ってくれたのかもしれないと、想像してしまう。


偶然だった可能性も大いにある。


ここから真実は見えないけれど、“今、手元にある”という事実に幸せを感じた。




そして迎えた演奏会当日、舞台となる区民ホールに早朝から向かった。



夢のような出来事の余韻を身にまといながら、制服のポケットにはファンレターの返事をコピーしたものを小さく折りたたんで入れていた。



今日を迎えるまでの練習はハードで大変だった。


思ったような演奏が出来ず、悩んだこともあったけど、逃げ出さずにいられたのは、部員のみんなとの励ましがあったから。


そして何より、音色を届けたい人がいたからなんだ。


会場にはいないけれど、彼のもとにパワーとなって飛んでいってほしい。



舞台の幕が上がり、ついに1曲目が始まる。



指揮者の竹中さんが両手を高く振り上げた。



――…奏でるよ、カナタに向けて。
届け、届け、届け。