トゥルル
トゥルル
濱野屋の携帯が鳴った。
通りかかりの数人が、そのありきたりな音を自分のものと勘違いし、ポケットを探った。
「なに」
濱野屋は電話に言った。
「おきてる?」
ビリー・ホリデイのような声がいった。
「まだこねぇよ」
濱野屋は答えた。
「ついでだからさ、1レース、3の頭で三連単、全部流して買っといて。五千円ずつ」
ふざけんな、と濱野屋は言った。
「俺は仕事中だし、五千円ずつ買ったら、十万かかんだろ」
女の声は食い下がった。
「一割やるからさ。これ3の頭鉄板だから」濱野屋はため息をついた。
「まじで金返せよ」
「健ちゃん愛してるぅ」
ビリー・ホリデイは色っぽいハスキーボイスで言った。