煙草が一箱なくなりかけ、缶コーヒーを一本飲み終え、立つのに疲れてしゃがみこんだ頃に、競艇場が開放され、期待と失望に胸を膨らました人々を、百円玉と引き換えに受け入れ始めた。そして、数時間後には、ほとんどの人間が入場料の何倍もの金額を失い、肩を落として帰ってゆく。
最初から負けている勝負。人生の暇つぶしには、そんなことも必要なのかもしれない。
濱野屋は、負け犬達といっしょに競艇場の中には入らなかった。彼が考えているのは、煙草を買いに行こうかどうかだけだった。
だがその二、三分のせいで目的の人物を見逃すのがいやだったので、彼は煙草を吸うペースを落とした。
彼は待つ事に慣れていたし、ここは煙草が吸えるだけ運がよかった。
開場してもすぐにレースが始まる訳ではない。一時間ほどしてから、レースが始まる。
おそらくそれに間に合うように、目的の人物もやってくるだろう。