白いワンピースの女

これから話すことは、誓って本当のことです。また、話の中で出てくる場所がもし分かったとしても決して近づかないでください。
どうしても、というなら、塩と線香を持っていってください。
今から5年ほど前のこと。
私は当時15歳で、横浜のKという場所に住んでいた。

地元の高校に通っていて、付き合いの長い3人の友人がいた。

幼馴染の友人みなみ、中学からの仲間、晃(あきら)、慶太(けいた)。

私たちは、深夜に家を抜け出しては公園やコンビニで雑談をしていた。

この小さな街はどこも退屈で、私たちは日々を浪費していた。
ある日、学校でこんな噂を聞いた。


東名高速道路の下にいつも工事中のトンネルがある。午前2時くらいに、そばを通ると、うめき声や、叫び声が聞こえる。そして白いワンピースを着た女の幽霊が出る。

この話を聞いた晃がいった。
「いい退屈しのぎだ。胆試しに行こう」
「いいね、行こう行こう」
私以外はみんな乗り気だった。

「今日の2時にトンネルに集合な」
慶太がいった。
私は懐中電灯を持ち、トンネルに向かった。
トンネルの前まで来たが、誰もいない。
聞こえるのはコウロギの鳴き声と、高速を走る車の音だけだった。

夏だというのに、うすら寒かった。
携帯を見た時、駐車してある車の影から人影が飛び出した。

わ!

慶太、みなみ、晃だった。

心臓が口から出そうだった。
「バカ! ふざけないでよ!」

「ごめん、ごめん」
晃がおどけながら謝る。

私はムカついて、晃を引っ叩きたかった。

「さ、行こうぜ」
慶太がいった。
トンネルの入口はバリケードのように、黒と黄色に塗られたしきりのような柵が立っていた。

よっと!

慶太は柵の隙間から向こう側に飛び降りた。次にみなみ、晃が続いた。
私たちの目の前にある柵は何かの境界線で、今私と3人はまるで別々の世界にいるような気がした。

くぐっちゃだめ!

と、私の理性が警笛を鳴らした。


「早く来いって」
晃がいう。

私は柵によじ登りると、飛び降りた。
少し歩いたところにトンネルがあった。
あまり大きくない。車一台が通るのがやっとだろう。

ふわっと、トンネルから出てくる吐息のような風が私をなでた。
背筋が冷たい。氷が流れたようだった。

「行こう」
晃は懐中電灯をつけ、中に入っていった。私たちも続いた。


…………


ニチャ、
ニチャ、
ニチャ


足元には泥がたまっているようで、歩くたびに不気味な音をたてた。

静かだった。
私たち4人の息づかいしか聞こえない。
「たいしたことないな」
慶太がいった。

懐中電灯はサーチライトのように壁や地面を照らし、ずんずん進んでいった。

前を歩いていた慶太が足を止めた。

「なに? どうしたの?」
みなみがいった。

「見てみろよ」

慶太が照らした先に小さい人形がうつった。

全員言葉を失った。


ぽた……
ぽた……
ぽた……

水滴の落ちる音がしている。

私たちは大量に置かれたひな人形を目にした。

「うっわ。ヤバくねえかこれ……。なんなんだよ」
晃は恐る恐る人形に近づいていった。