「御機嫌よう、イヴリン。険しい顔をして、どちらへおでかけ?」

 呼び止めたのは、彼女が働くマッケンジー家から数ブロック先に居を構える、アビントン家の若奥様。揚羽蝶のように毒々しい色のドレスをいつも着ている。

「ご機嫌麗しゅう、マダム。良いお天気ですね」
「マダムだなんて、他人行儀は嫌よ。わたくしのことは『アナベラ』と呼びすててちょうだい」
「畏れ多いことでございます」

(そうそう、そんな名前だったわ)
 思い出せてすっきりした。