いわゆる、男と女の関係になってしまってからも、二人は恋人と呼べる間柄ではない。


「チカは僕にとって、恋の相手じゃない。

だけど必要な存在なんだ。

チカだって、そう思ってるんだろう?

だから、ボクを受け入れる・・・」


小さな子どものような屁理屈に、チカは抗うでもなく受け止めてしまう。


この関係を自分からは断てないことはチカ自身が一番よく知っていた。


数年前にさすがに受け止めかねて、県外へ出向してみたことがあったが、距離はなんの解決にもならなかった。


むしろ、自分の気持ちをあからさまに見つめることになってしまった。


何時の間に目を覚ましていたのだろう・・・

ふいにカズマに手を取られ、抱きすくめられてしまった。


カズマはチカに覆い被さるようにしたまま、微塵も動かない。


「何があったの?」


チカは小さな子どもをあやすようにカズマの髪をなで上げる。


ようやく、耳元で何かをつぶやきはしたが、布団に押しつぶされて、声は届かない。

もういちど、今度は少し鮮明に、カズマの声がした。


「おふくろ・・・死んだんだってさ。それも三ヶ月も前にだぜ・・・」


たしか、幼い頃にカズマを置いたまま母は母国のイギリスへ渡ったと聞いた。


端正な日本人の顔に長い手足、1/4だけ異国の血が入っていると聞いて、なるほどとチカは納得したものだった。


社内ではそれを知るものは少ない筈だ。


チカはかける言葉もなく、カズマの背を抱く。


一瞬自分にカズマの母の霊が乗り移ったのではないかと思われた。


「あなたはカズマから逃げられないのよ・・・
これから、先もずっと・・・・」


もう一人のチカが囁いていく。


多分そうなのだろう。これからも、なにがあってもカズマがこうして帰ってくるたびに私は受け入れてしまうのだ。


チカの脳裏に

Co-Dependency(共依存)という言葉が

  一瞬、ひらめいて

      消えた・・・。


おわり