少しだけ神崎君と近くなった気がした。

「そういえば、さっきは名前間違えてごめん」
『ああ、慣れてる』
「そうなんだ・・・神崎君って凄いモテるよね!さっきも教室の前に女の子集まってて入れなかったし、トイレでも神崎君の話題ばっかりだしさ」
『今日が初登校だったから皆興味本位で見にきてるだけだろ』
「でも女の子ばっかりだし・・・」
『岡田は俺の事、好きなの?』

前を見ていた彼が突然私の苗字を呼び捨てにして、真っ直ぐに見つめてくる。
その瞳は栗色の髪と同じで、薄茶色で綺麗。
なのに、どこか冷たくて怖い。
だから目が反らせなかった。

「す、好きじゃない・・・」

勝手に口が動いてた。

『・・・ふはっ、ほらな?興味があるかないかの違いで、実際に付き合うってなればまた別の話』

ニコッと初めて笑ってくれた神崎君の顔は幼く見えて少し悲しそうだった。

「私は興味本位とかで屋上までついてきたわけじゃないよ?」
『そうなんだ?』
「うん、そう」

それを証明する上手な言葉が見つからない。
自分でも自分自身が分からないことがたまにある。
それでも、もう少しだけ神崎君に近づきたいと思った。
明確な答えが出るかも知れないと思ったから。

「なんで10日も休んでたの?」
『なんでそんな事知りたいの?』
「えっと・・・」
『悪いけど、お前には関係ねぇから』

神崎君の真剣な声と何も寄せ付けない瞳に鼓動が早くなる。
近くなったと思った距離は錯覚で、前よりも遠くなった気がした。
神崎君は『寝る』と言って横になり、その冷たい瞳を閉じた。