HRが終わると、話題はどこも神崎君についてのようだった。
特に女子はこっちをチラチラ見ながら興奮したように話しているから直ぐにわかる。
隣りの席の私は気にしないフリをしているが、後ろの席の加代が背中を何度も突ついてくる。
我慢できなくなった私は振り返った。

「何?」
「何か話しかけてみてよ」
「なんでよ?」
「隣りの席でしょ?」

小声でやりとりするも、もしかしたら本人に聞こえているかもしれない。
前を向くと、意を決して声をかけた。

「神崎君、だよね?」
『そうだけど』
「私、隣りの席の岡田優木。よろしくね」
『あぁ、うん』

低い声に、無表情であっさりとした返答。
正直、無愛想で感じは良くないと思った。
すると、また加代が背中を突ついてくる。
もっと何か話せって言っているのだ。

「あの、いっぽって名前、珍しいよね」
『・・・いっぽ?』
「うん、神崎君の名前」
『・・・かずほ、だけど?』

その瞬間、ボキッと心が折れる音がした。

一歩と書いて”かずほ”
恥ずかしさで何も返せなかった。
加代ももう背中を突ついてはこなかった。