貴方に夢を。私に心を。



私も男を観察してみる。



顔立ちの整った人だった。



黒い短めの髪に程よく焼けた肌。




彫りの深い顔に高い身長。




例えるなら、アラブの王様。




全てを手にする…。




そんな存在。




「アンタだったらすぐ売れる。」




ーフッ




思わず笑みがこぼれた。




そんなこと、どうでもいい。





それよりも…



「ねぇ…それって暇つぶしになる?」




くっと口角を上げる。




その言葉に男も笑った。




「ハッ。それは、アンタ次第さ。」




ヒュッ。と風が吹いた。




また、私の目の前を黒がちらつく。




あぁ…。




長くて仕方ない。




「そういえば、アンタの名前は?」




この、




「私?私の名前は…」



くだらない人生は。










「有栖川 麗歌よ。」


















さあ、始めましょうか。














今、世界ではある日本のアーティストが注目を集めていた。




透き通るような声。




涙が出るほど切ないバラード。




聴いた誰もが虜になる。




でも、誰も素顔を知らない。




いつも、ベールを被り、下ろしているから。




それが好奇心を掻き立てる。




だが、人々の間では女が絶世の美貌を持っていると言われていた。












その女の名は、『アリス』ー・・・













この世界にはたくさんの人間がいる。




しかしこのたくさんの人々が行き交うこの小さな都会でも一人一人、世界の見え方が違う。




目の前が真っ暗で右も左もわからない者もいる。




全てがキラキラと輝いて未来を夢見る者もいる。




色を失って全てを諦めた者もいる。




でも、誰1人、誰が何を思って何を考えてるかなんて考えた事などないのだろう。



突然、上から美しい声が降ってきた。




それは綺麗なメロディーを紡ぐ。




その声に。




歌に。




世界が…




停止した。




みんな、足を止め、上を見上げる。




高いビルの大きな映像には1人の女が映っていた。




雨の中、1人で空を見つめ、願いをかける様に音を奏でる。




真っ黒なドレスにベールを顔にかけていて顔は分からないが、見る者を惹きつける。




そんな引力を持っていた。




歌を聴いていた全ての人がその切なさに心を震わる。



…歌が、




終わる…。




最後には『アリス』という字だけが残った…。




ザワザワと世界に活気が戻る。




「アリス、ヤバイ!」




「今回も泣けた…。」




「ってかコレ新曲じゃね?」




「ええ!買いに行かなきゃ!」




「あー。アリスの顔、見てぇ〜。」




「アイツに教えてやろっ!」




涙を流す者やCDショップに走る者、この場にいない人に連絡をする者。




たくさんの人が同じ様に謎の歌手、アリスの事を話していた。




その日、アリスの新曲は完売し、発売当日にオリコンチャート1位を記録した…。

〜麗歌side〜

扉の近くにあるカメラに顔を向ける。




ー……ガチャ




しばらくすると扉が開く音が聞こえた。




何もせず、ゆっくりと扉を押す。




「お前な〜、ノック位しろよ〜。」




洋平が呆れた顔でこっちを見ている。




その顔に思わず笑みがこぼれた。




「そんなの必要ないでしょう?」



「はぁ〜⁉︎必要に決まってるだろ〜!俺は、仮にも社長だぞ!」




あ、少し緩さが崩れた。




でも、私はそんなメンドくさいことはしない。