「次は俺ね。」
口を開いたのは、優しそうなメガネさん。
「俺の名前は古村 葵ーコムラ アオイー。高2で、好きなもの?は、んーと…。機械系の物かな?」
機械系って、なんかイメージ通りね…。
ダークブラウンの髪と瞳。
成宮 雷翔と神田 雪夜ほどではないにけれど、十分高いと言える身長。
優し気な瞳がメガネの奥にあり、どこか安心する。
白馬の王子とか似合いそうね。
「ほら、次言いなよ。」
その声に古村 葵の隣に座る人を見る。
「…水沢 啓ーミズサワ ケイー。高2。特にない。」
最後のは、好きなものがないってこと…よね?
なんか、無口ね。
漆黒の髪と瞳。
高めの身長に普通よりは白い肌。
人の心を見透かしてしまいそうな瞳と気品ある薄い唇。
整った目鼻立ちはどこまでも大人びていて、思わず見惚れそうになった。
どこか、現実味がないこの男は美しくて、恐ろしい…。
そんな人だった。
「ねえ、レイちゃん大丈夫?レイちゃんの番だよ?」
そんな柚の声にハッとする。
「ええ、大丈夫よ。ありがとう。」
フッと柚に向かって微笑めば、柚はほんのりと頬を赤く染めた。
そして、前に向き直り、口を開く。
「有栖川 麗華。高1。呼び方はファーストネームだったら、なんでもいいわ。」
一気に言って、ふわりと笑った。
「おいおい〜、ちょっと待てよー。」
ここで口を挟んだのは、神田 雪夜で。
思わず、眉を顰める。
このまま、終わるつもりだったのに…。
「好きなもんもしっーかり言えよー。」
はあ…。
笑っただけでは、流石に流されなかったか…。
〜春side〜
自己紹介が終わって1時間が経過した。
皆、一人一人が個人プレー。
アオちゃんはぁ、どこから持ってきたのかわからないパソコンを弄ってるしぃ。
ケイくんはぁ、ただひたすらボーとしてるしぃ。
(考え事かもしれないけどぉ…。)
ライくんとユウくんはぁ、ユズちゃんとおしゃべり(?)をしてるしぃ。
そんなユズちゃんはぁ、オロオロしまくってるしぃ(かわいーけどさぁ)。
……………あれ?
あれれ⁇
何にもやってないの僕だけぇ⁉︎
完全にぼっちじゃん!
あっ、そーいえば。
レーちゃんはどこ行ったんだろう?
自己紹介のあと、少ししたらどっか行っちゃったなぁー。
ま、いっか。
僕は、なんだかあの子の空気嫌いだしー(多分、他の皆もね)。
あの、何処までも底が見えない感じがちょっとなぁー。
それに比べて、ユズちゃんはちょーいー子!
なんか、こっちが癒されるんだよなぁー。
ーガチャ。
不意に部屋に無数にある扉の一つが開いた。
そこに目を向けると立っていたのはレーちゃん。
そして、その手には…。
お菓子とティーカップ?
なんで、急に?
レーちゃんは僕の方を見るとこっちに向かって歩いて来た。
「隣、いい?」
「う、うん…。」
返事を返すととっても優雅な動作でソファーに腰掛けた。
そして、テーブルにおぼんを置く。
ふたつのティーカップ紅茶を注ぎ、片方を僕の前に置いた。
「どうぞ。」
そう言ってニッコリ笑った。
「へ?」
突然の事に思わず変な声が漏れる。
でも、そんな事には構わず、もう一つのカップをユズちゃんの前に置いた。
「ん?どうしたの?」
イヤイヤ、こっちがどうしたの?だよぉー。
なんか、ユズちゃんに限っては「わぁ、ありがとー!」とか言って喜んでるしー。
「えーと…、なんで?」
我慢出来なかった僕は迷わず聞いた。
考えても分かんないしねー。
すると、レーちゃんはキョトンとした顔をした。
なんか、可愛い…。
「…え?食べたいって言ってたじゃない。」
僕が?
いつだっけ?
「さっき、"甘いものが食べたい"って。」
「甘いものが食べたいー。」って言ったら、皆にスルーされたんだっけ?
聞いてないと思ってたのに…。
「だから、探したんだけど、見つからなかったのよ…。」
「え?じゃー、これは?」
「これは、材料があったから、私が作ったの。時間がかかってごめんなさいね?」
「えぇー!コレ、自分で作ったのぉー⁉︎」
指を指した先には、お店で売ってそうなくらい美味しそうなブレッド。
「うん。意外?」
「や、意外って言うか、なんていうか…。」
口ごもる僕。
正直言って意外だった。