はあ。
はあ。
はあ……。



「も、もう……大丈夫だろう」
増田の肩は大きく、波のように揺れていた。



「う、うん」


私たちは、まだ手が握られていたことに気づくと、あわてて振りほどいた。


「バカが移ったら大変だ」
と私はいった。

「俺はウィルスかよ」

「手から感染するかもね」

「あほらしい」

やっと息が落ち着いてきた。
もうほとんど陽は落ち、辺りが急速に暗くなりだした。


「どうして私のとこに来たの?」

「お前の仕事を手伝ってやろうと思ってな」
「増田にも優しいとこあるんだ」

「まあな、お前の仕事手伝ってラーメンでもおごってもらおうと思ってさ」

「何、ラーメンの為に私を助けたの?」
「今金欠なんだ」

増田はしゅるっと鼻をならして、足元の草を引き抜き放った。

「もう大丈夫だろう。帰ろうぜ」
「ラーメンはおごらないよ」


私たちは恐る恐る路地から出た。あいつらはもういなそうだ。

「じゃあ、またな」

私は駅に向かい、増田は別方向に進んだ。

ちょっと歩いて、


「おい増田」
と呼び止めた。

増田は振り返った。

「ありがと」

「腹が減ってただけだ。じゃーなブス」
「うるせえパンツ野郎」

そして、夜がやって来た。
私は家につくと、部屋に駆け上がった。
途端涙がこぼれた。次から次へと涙が頬をつたった。


怖かったんだから。ほんとに怖かったんだから。