「 今年、俺の受験と姉さんの受験がある…。俺は公立、姉さんは私立。
父さんは金の心配ばかりして、母さんとよくもめる。ついには、暴力までするようになって、父さんは…俺らを殴るんだ。 」






「 …。」








何も言えない。
言葉が出ない。


優しくて、クールな彼の裏にはそんな悲しい顔があった。

私の知らない顔。

今にでも涙が溢れそうで、おもわず抱きしめたくなるような寂しい顔。



私は何もできない。



何もできない







できることと言ったら…





私は仁に勢いよく抱きついた。





抱きしめるのは初めて。
ちょっと照れたけど、でもそれどころじゃない。




彼の背中は大きい。

けど、何故だか今だけは小さく見える。


そんな彼の背中を撫でる。




…温かい。