赤坂仁。
それが俺の名前。
好きな人がいる。
咲田夢
──その人は、俺のことを忘れている。
夢が処置室にいるとき、ずっと考えた。
なんで、なんで俺だけ忘れられて
るんだろう、って…
俺が、精神的苦痛になったのか?
夢の記憶にとって、俺は
”いらない記憶”だったのか…?
今にでも、泣き出してしまいそうだ。
立っているのがやっと。
思考を巡らせ、頭がパンクしそうだ。
そんなとき、夢はやってきた。
「 仁くん」って…
俺があげた帽子、被ってんのに…
それなのに夢の記憶に、俺はいない。
車椅子を一生懸命漕ぐ夢は可愛くて…
笑顔になってしまう。
でも、夢はもう歩けない。俺のことも忘れてる。
そんな夢がここにいると思うと、涙が出そうになる。
自分の彼女が精一杯生きている。
それなのに、俺、何にもできねぇ。
情けない。
話がしたいって夢は呟いた。
夢のために何ができる?
何もできない?
いや、何かできるはず…。
俺は夢を屋外庭園まで連れていった。