淡々と彼は言葉を紡ぐ。それを聞いた瞬間に、嗚呼、終わりが訪れたのだと彼女は悟った。静かに絶望を噛み締める彼女に追い討ちをかけるように、彼は真っ直ぐに五十鈴の目を射抜く。

五十鈴を射て殺そうとでもするようなその視線は、彼女が惚れたそれそのものだった。


口を開きかけた男に縋り付くように抱き着いて、何も言わせぬように唇を自身のそれで塞ぐ。抵抗しない彼の唇をこじ開けて、その舌を絡め取り吸い付く。
甘い、林檎の香りのするキスだった。


「…別れるんでしょ。いいわよ、別に」


吐き捨てるようにそう言うと、五十鈴はするりと男の首に腕を回した。やはり、彼は抵抗しない。左手で腰を抱き寄せられた。

下から覗き込むように彼の瞳に映る自分を見つめながら、そっと彼女は台詞を囁く。


「でも、一ヶ月もご無沙汰で私もいい加減溜まってるの。…別れるなら、私を最後に抱いて頂戴?」


彼は何も言わない。けれどその返事代わりなのか、無言で五十鈴を押し倒した。いつものようにベッドに雪崩れ込みながら、彼女はテーブルの上の、食べかけの林檎に視線を向ける。

齧りついたところはもう、茶色く変色していた。