「芳。お前は戦線離脱して由紀を屋敷まで送ってくれ」


まだ煙が立ち込めて、騒がしいこの地で、
暁斉はあたしの肩を抱いて支えた。


芳さんを呼んであたしを帰すように命じる。
あたしはただひたすら、足元を睨みつけていた。


まだ、さっきの男たちの血が消えない。


当たり前だけれど、それが妙に恐ろしく感じる。
死の恐怖を目の当たりにして、
ようやく自分が震えていることに気が付いた。


冷静だったんじゃない。
頭が追いつかなかっただけだ。


「はっ。仰せの通り」


「頼んだぞ。俺はまだ、
 やらなければいけないことがある」


「あ、暁斉!」


待って、行かないで、と暁斉の名を呼ぶと、
暁斉はあたしに向き直ってあたしをじっと見つめた。


「俺はどうしてもやらなければいけない。
 でも、お前とも約束しよう。必ず、生きて帰ると」


「絶対?」


「ああ。必ず」


「帰ってくる?」


訊ねると、暁斉はにいっと笑った。
含みのある笑い方で。


「帰ったらたっぷり説教をしてやる。待っていろ」


その言葉に、ほっと胸がすっきりするのを感じた。
力強い目、淡々と落ちた言葉。
何故か暁斉は帰ってくると、そう思えた。


「では、頼んだぞ」


「はっ」


暁斉はそのまま振り返らずに走って行ってしまった。
その背を黙って見つめる。
呆けていると、芳さんがあたしの肩を叩いた。