そこで言葉を切って、俯く。
あれ?
雪姫に頼まれて来たはずが、どうしたの?
今あたし、暁斉に死なないでほしかったのは自分だったって言ったよね。
あれ?
「それでもここに来るなんてバカだお前は!
さっさと帰れ!」
あ。暁斉、本気で怒っている。
それが顔を見なくても声ですぐに分かる。
そう思うともう顔も見られなくて、
地面をじっと睨みつける。
すると、頭上からため息が降ってきて、
暁斉の手が視界に映り込んできた。
あっと思ったら頬に手が触れていた。
暁斉の手によって顔を上げられる。
歪んだ表情の暁斉の顔が映り込んだ。
「怪我をしたのか?大丈夫か?」
その声が優しくて、泣きだしそうになる。
唇を噛みしめて、暁斉の目をじっと見つめた。
まさに眉目秀麗なその顔が目に映る。
暁斉が触れるたびにピリッと感じる痛みでさえも心地よく感じた。
「由紀。大丈夫か?」
その名を呼ばれて、あたしは気付いてしまった。
ここは、戦国時代。
家族も彼氏もいない得体のしれない時代で、
出会うはずのない人たちがいる世界だけれど、
憎たらしいと思っていたこの偉そうな男。
だけどあたしは、その鎧を着て戦場に向かった彼の背を見て、
「行かないで」と思った。
ただ、単純に、死んでほしくないと思った。
死なないで。そばにいて。
あたしは、いつの間にか、
暁斉を……好きになっていた。