その人は悲しそうにそう呟いた。
伏せられた目元が綺麗で、
女のあたしでもついつい見惚れてしまうほど。
「雪姫様。どうかお戻りください」
則暁くんが頭を下げてそう一言告げた。
雪・・。
やっぱりこの人があの夢に出てきたお姫様・・・。
「どうして・・・どうして私はダメなのですか?
私が父上の娘だから、ですか??」
「勘十郎殿は信長公の同母弟。
暁斉様を想うなら、今日は戻られたほうがよろしいかと」
「その女がここの敷居を跨ぐことはできても、
私はいけないということですか?」
「暁斉様は今、信長公のもとまで出られました。
このようなところを見られては暁斉様の
お命が奪われかねません」
何?何なの?
何の話?
一人、訳のわからないまま2人の会話を聞く。
織田信長の同母弟って確か・・・。
(織田・・・信行)
その、信行の娘がこの雪姫様?
でも、どうして暁斉の命がどうとかっていう
そんな話になるのよ。
「あ・・・・」
“信長公に仕える武士だ”
あの言葉を思い出した。
織田信長の家臣、結城暁斉。
そして、織田信行の娘、雪姫・・・。
そういうことなんだ。
だから、だから・・・。