「……葵は……お兄ちゃんは何も悪くないよ…」








あたしは、項垂れるようにして顔を上げない葵の頭を、包み込むようにして抱き締めた。



ごめんね、カイト。

今だけは、“過去”とさよならするために、許してね。


葵はあたしの腕の中で、一瞬、驚いたのか小さく震えた。

その震えで、葵がどれだけ後悔していたのか、痛いほどわかった。


「……みんな悪くないよ…みんな優しいんだもん…。

ごめんね、お兄ちゃん…あたし何も知らなかった…気付かなくてごめんね…
…もういいよ。
もう責めなくていいよ。

あたしはもう…大丈夫だから…」


知らずに流れ落ちる涙が、葵の髪の毛を濡らす。


「ありがとう」と、葵が小さく、呟く声が聞こえた。





お互い、きっと、ずっと、本当は忘れられなかった。

もう気持ちは消えてしまったけれど。

暗い過去として、抱え込むことになってしまった。

それを乗り越えるために、きっとこの、会えなかった一年間は、

必要な時間だったんだ。


あたしは葵を忘れるために。

葵はあたしを忘れるために。


あの過去を…どちらも最低で、けれどどちらにも責任はない、あの過去を拭い去るためには。