葵は、絶対にあたしを見ない。

ずっと下を向いて、己を責めるように話を続ける。


「離婚して、家を出て行くと聞いて…僕はどうしていいかわからなくなった。

チィを守らなきゃと思っていたのに、離れてしまったら何もできない。
何もできないなら、いっそ忘れてしまった方がいいと思った。

……でもチィは違ったみたいだったね。

…僕と離れたくないと、言ってくれた」


『好きだから』


それが、葵を追い詰めた。

あたしは、葵にとって、一番残酷な言葉を、口にしてしまったのだ。


…何故だか、涙があふれてきた。



「僕も、できることならそうしたかったさ。
けど、現実問題、僕らはまだ子供で…そんなことできるわけないんだって。

じゃあ、どうしたら忘れられて、かつ、チィが僕のことを嫌いになるか。


……そう考えたら、あんな最低な考えしか浮かばなかったんだ。


…チィを守ろうと思ってたのに、真逆のことを、僕はしたんだ」



「本当にごめん」と、葵は言った。

その声は掠れていて。


…嗚呼、葵は、ずっと、ずっとこのことを、悔やんでいたんだと。







――全部わかった気がした。