それは、あたしがわかっている“つもり”だからで、ホントはなんにもわかっていなかったから。


“どうにかしなきゃいけない”

“みんなに迷惑をかけている”


心の浅いところではそう考えているけれど、もっと奥深くのところでは、


“いつかどうにかなる”

“みんなはきっといつまでも優しい”


そんな、甘えた考えしかないのだ。


最低な人間だな、と思った。


あたしはしょせん、そんなヤツなのだ、と。





「……千早ちゃん」


小町さんの呼ぶ声で、あたしは微かに視線を持ち上げる。

小町さんの表情は、優しそうでもあり、真剣でもあった。


「逃げなきゃいけない、理由があったの?

もしあったなら、それはどんな理由?
私に話してくれるかな?

辛いならいいけど、でも、もしかしたら何かできるかもしれない」


“理由”

あたしは、逃げなければならなかった“理由”を思い出し。


蘇る恐怖に、吐き気を催した。


口元を押さえて俯くあたしの手を、瞬間、カイトが握った。

瞳を向けると、カイトの“大丈夫だから”と伝えてくる、ダークブルーの瞳があった。


大丈夫。

そろそろ、あたしも成長しなきゃいけない。


「……話します」


あたしは顔を上げ、小町さんに全てを話しだした。